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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)8号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第七号証によれば、本願第一発明は、電子構成部品をハイブリツド回路基板上に正確に載置する装置、さらに詳しくいえば、下面に半田隆起を有する、半導体チツプ、コンデンサチツプ、集積回路チツプ等小さい部品で一般にフリツプチツプとして知られている部品を、薄膜導体によりあらかじめプリントされているセラミツク基板上に載置するハイブリツド回路盤組立装置に関するもので(昭和五七年一一月一三日付け手続補正書の全文補正明細書(以下「補正明細書」という。)第八頁第二〇行ないし第九頁第七行)、複数個のチツプ整列受板を配列保持した整列受板保持台から、所望のチツプを自動的に、かつ、連続的に選択し、これらチツプを、X―Y位置決め及び回動位置決めして、プログラムに従つて単一基板上の種々位置に正確に載置する装置を提供することを目的として(補正明細書第一九頁第一五行ないし第二〇頁第二〇行)、特許請求の範囲(1)項(前記本願第一発明の要旨)記載のとおりの構成を採用したことが認められる。

(二) 一方、引用例に、チツプを吸着保持するチヤツクを水平面のX軸、Y軸及び垂直軸に沿つて移動できるように組立てるとともに、垂直軸を回転軸として回転できるように組立て、フイールドテーブル上に供給されたチツプを垂直軸に沿つて下降してきたチヤツクに吸着保持し、このチツプを吸着保持したチヤツクをY軸方向に移動させる途中で、デイツプ位置においてチツプに接着剤を付着した後、基板を保持した作業台の直上に到達したところで垂直軸に沿つてチヤツクを下降させ、チツプを基板上の所定位置に押し付けて接着し、組付けを行うように構成したハイブリツド回路盤の自動組立装置が示され、さらに、作業台上に保持した基板を組付け位置へ移動させるために、作業台はX軸と平行なS軸へ移動できるように構成されている旨の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。

2 相違点の看過について

(一) 本願第一発明におけるスピンドル部分の構成について、特許請求の範囲(1)には、「スピンドルハウジングに、下端で前記チツプを吸着保持するスピンドルを回転および昇降可能に組付けたチツプ保持装置(以下、「構成要件A」という。)」と、「前記チツプ保持装置のスピンドルを、該スピンドルの回転動作を阻げることなく昇降移動させ、かつ前記スピンドルの昇降移動限を設定するスピンドル昇降装置(以下、「構成要件B」という。)」との記載があることは前記1(一)で認定したとおりであつて、右記載からすれば、回転及び昇降移動するのはスピンドルのみであることが明らかである。そして、このことは、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例からも明らかである。すなわち、前掲甲第七号証によれば、構成要件A及び構成要件Bに関して、「スピンドル48は、ヘツドブロツク200を垂直(第7図)に貫通している。スピンドル・ハウジング202はヘツドブロツク200に固設され、かつ、スピンドル48を回転し摺動させる二つの垂直に隔設された軸受ブツシユ204を内設している。スピンドル48はスピンドル・ハウジング202と直接接触せず、それら間にすきまが設けられ、以下で詳述するように環状室203(第8図)がスピンドル・ハウジング202内のスピンドル48を包囲するようになつている。スピンドル・ハウジング202は大体円形でスピンドル48と同心である(補正明細書第三八頁第一三行ないし第三九頁第四行)。」「軸筒207を有するプーリ206はその周囲をスピンドル48と同心にしてヘツドブロツク200の頂上に回転するように取り付けられ、スピンドル48はプーリ206を貫通している。軸受208、210は軸筒207を回転可能に収容し、ヘツドブロツク200内にプレスはめされている。キーみぞ214を有する細長く垂直な円形スリーブ212はプーリ206の上面に剛的に取り付けられている。ガイドキー216はキーみぞ214を貫通してスピンドル48に締付けられ、ガイドキー216をキーみぞ214に沿つて垂直に円滑に摩擦しないで転動させる。この構造により、スピンドル48は前記のように常に上下に移動して軸受ブツシユ204内を摺動することができる。さらに、プーリ206が回転すると、スピンドル48は、ガイドキー216に抗して作用する円形スリーブ212によつて駆動されプーリ206と一緒に回転する。従つて、スピンドル48の上下運動または回転運動が他の運動とは独立して行われる。スピンドル48は、取付ブラケツト220によつてヘツドブロツク200に固定されたステツプ・モータによつて回転駆動される(補正明細書第三九頁第五行ないし第四〇頁第五行)」「スピンドル48は、このスピンドル48の上部に固設されたみぞ付円板228と回動係合する昇降腕226(第4、第7、第9及び第10図)によつて垂直に移動される。みぞ付円板228を取り囲む周溝230は横断面が長方形で一対の対向係合ピン232と係合し、これら係合ピン232は、昇降腕226のスピンドル48の近接端よりなるヨーク234の両枝部から水平に延長する。係合ピん232は周溝230に摺接し所定の力を加えて、スピンドル48に縦曲げ応力を生ぜしめることなくスピンドル48を垂直方向に上下動させ、スピンドル48の上昇に関係なくステツプ・モータ218に応答してスピンドル48を自由に回転させる(補正明細書第四〇頁第一一行ないし第四一頁第三行)。」「昇降腕226の対向端は、昇降腕226を垂直方面で回転させるピポツト軸238によつて固定柱236に枢着される。規制ねじ240は昇降腕226の端部にねじ込まれて、固定柱236の突当り片244に当接する。止ナツト246は規制ねじ240の設定を固定しかつスピンドル48の上昇を制限する(補正明細書第四一頁第四行ないし第九行)。」「第9図において262で総括的に示す圧力制御部は所望によりシリンダ250内に正圧または負圧を形成し、正圧により、規制ねじ240により運動が阻止されるまでピストン248を駆動して上昇させ、スピンドル48を引き上げ、負圧によりピストン248及びスピンドル48を下降させる(補正明細書第四一頁第一七行ないし第四二頁第二行)。」「内部真空を使用する中空で垂直なスピンドル48が降下して整列受板26上のチツプ40を捕捉する。所定のチツプ40を保持したスピンドル48は上昇し、チツプ搬送体46は、(中略)X―Y面を横方向に移動する。チツプ40はスピンドル48の回転によつて回動方向の姿勢が決定され、(中略)その後スピンドル48は下降し(補正明細書第二四頁第一九行ないし第二五頁第八行)」と記載されていて、本願明細書には前記構成要件A及びBに関し、右と矛盾する記載は存しないことが認められる。右認定事項からすると、チツプの吸着保持はスピンドル48の下端でなされるもので、このスピンドル48は、これを回転及び昇降可能に組付けているスピンドルハウジング202とは二つの軸受ブツシユ204を介して、直接接触せずに設けられていること、スピンドル48への回転力は、プーリ206に取付けられた円形スリーブ212のキーみぞ214にスピンドル48に取付けられたガイドキー216を沿わせ、プーリ206をステツプモータ218で回転駆動させることにより与えられているもので、これによつてスピンドル48の上下動と回転運動とが他の運動と独立して行うことが可能となつていること、そして、スピンドル48の昇降移動は、スピンドル48の上部に設けられたみぞ付円板228の周溝230に係合ピン232を介して昇降腕226を設け、この昇降腕226をピストン248で上下させることにより行われており、昇降腕226は、ピポツト軸238により固定柱236に枢着され、昇降腕226の端部に設けられた規制ねじ240によつてスピンドル48の上昇が制限されていること、また、昇降腕226の先端部は、係合ピン232とみぞ付円板228の周溝との係合によりスピンドル48の回転動作を阻げない構成となつていることが理解される。したがつて、本願第一発明においては、スピンドル48は、スピンドルハウジング202に対して回転及び昇降可能に組付けられていることから、整列受板保持台24からチツプの取り出し及び基板30へのチツプの取り付けに当つて、昇降移動するものはスピンドル48だけであるという構成となつていることが明らかである。

被告は、本願第一発明の特許請求の範囲の記載は、スピンドルがスピンドルハウジングに直接組付けられ、かつ、スピンドルのみが回転及び昇降可能になつている構成となつていない旨主張する。しかしながら、構成要件A及び構成要件Bの記載からすれば、回転及び昇降移動するのはスピンドルのみであり、右スピンドルがスピンドルハウジングに直接組付けられている構成となつていることは十分に理解し得るところであり、前記認定のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明においても、右構成に従つた装置の詳細な説明がなされているのであつて、被告の右主張は採用し得ない。

(二) 一方、引用例記載の発明も、フイードテーブル上に供給されたチツプを垂直軸に沿つて下降してきたチヤツクが吸着保持し、これを基板を保持した作業台の直上に移動到達させたところで垂直軸に沿つてこれを下降させ、チツプを基板上の所定位置に押付けて接着し、組付けを行うように構成したハイブリツド回路盤組立装置であることは、前記1(二)で認定したとおりである。

そこで、右チヤツクの構造、作用について検討するに、前掲甲第二号証によれば、引用例には、「真空作動されるチヤツク44を具備するチヤツク組立体21(第六欄第五七行及び第五八行)」「チヤツク44(第11図)は、従来の構成の真空作動されるチヤツクである。真空チヤツク組立体26内の環状空間102と連通する接続管101を介して付与される。環状空間102は、半径方向孔103を介して中央通路104へ接続されており、該中央通路104はチヤツク44の先端部105と連通している(第八欄第一五行ないし第二一行)。」「第2図に示したごとく、チヤツク組立体26はチヤツクキヤリツジ51上に担持されており、該チヤツクキヤリツジ51は固定したフレーム53上に堅く装着したロツド52上をY軸22(第1図)の方向における移動に対して支持されている。ロツド52はY軸22(第1図)に対して平行であり、かつ、チヤツクキヤリツジ51は二つの軸受ブロツク54及び56によつてその上に摺動自在に支持されている。第11図に最も良く示した如く、チヤツクキヤリツジ51も、特に該キヤリツジに固定されている横断水平シヤフト58の端部に回転自在に嵌合されている軸受ホイール57によつて、第3点に支持されており、該軸受ホイールはフレーム53内の水平スロツト59と転動接触するための寸法構成とされている。(中略)軸受ホイール57はX軸方向の周りに回転自在であり、かつY軸方向におけるスロツト59に沿つて転動して、軸受54及び軸受56と結合して、チヤツクキヤリツジ51に対して安定な3点支持システムを与えている。第2図が更に示すように、チヤツクキヤリツジ51は、上部対のプーリ61及び62、下部対のプーリ63及び64及び夫々二つの上部及び下部プーリケーブル66及び67によつて、Y軸22(第1図)に沿つて往復に推進される(第七欄第三行ないし第三六行)。」「第2図に示すように、チヤツクキヤリツジ51は、(中略)Z軸ステツパモータ35と、X軸ステツパモータ36とR軸ステツパモータとを担持している。(中略)第11図に最も良く示すように、チヤツク組立体26は支持フレーム76上に片持梁状に取付けてあり、該フレーム76は二本の垂直に延在するシヤフト77及び78に固定されており、該シヤフト77及び78はチヤツクキヤリツジ51における対向する円筒状ボア79及び81内に夫々摺動自在に嵌合されている。第12図に最も良く示されるように、Z軸ステツパモータ35は円筒状ボア79に隣接するチヤツクキヤリツジ51上に装着されており、かつ、適宜の減速歯車82及びラツクアンドピニオン歯車83及び84を介してシヤフト77と接続されており、ラツク83はシヤフト77に接続されており、Z軸ステツパモータ35の動作に応答してチヤツク組立体26のZ軸、即ち垂直方向における移動が行われる。第11図が更に示すように、R軸ステツパモータ37はチヤツク組立体支持フレーム76上に垂直軸上に装着されており、かつ、R軸ステツパモータ37の回転に応答してチヤツク44の回転を行わせるべく、減速歯車86及びベルト駆動87を介して接続されている。第13図、第14図に最も良く示されているように、X軸23(第1図)の方向におけるチヤツク組立体26の移動は、X軸ステツパモータ36と、別の減速歯車88と、別のラツクアンドピニオン歯車89及び91とによつて達成される。チヤツクキヤリツジ51は、軸受ブロツクに固定したロツド92及び該ロツドに固定されており、かつチヤツクキヤリツジにおけるボア94内に摺動自在に係合する軸受カラー93によつてY軸軸受ブロツク54上に支持されており、X軸方向におけるその制限された移動を可能としている。同様な構成がチヤツクキヤリツジ51を他のY軸軸受ブロツク56において支持している。ラツク89はロツド92に固定されており、かつピニオン91がX軸ステツパモータ36へ駆動可能に接続されており、該モータ36はチヤツクキヤリツジ51上に装着されている。したがつて、X軸ステツパモータ36の回転によつて、チヤツクキヤリツジ51は、第14図中96における矢印で示したごとく、X軸方向に移動される(第七欄第三六行ないし第八欄第一一行)。」と記載されていることが認められる。右記載からすると、引用例記載の発明のチヤツク44は、チヤツク組立体支持フレーム76上に装着されたステツパモータ37の回転力をベルト駆動87で伝達されて、回転動作を行い、またチヤツクキヤリツジ51に装着されたZ軸ステツパモータ35の回転力を減速歯車82、ラツクアンドピニオン83及び84を介して、シヤフト77に与えることにより昇降動作を行つているものであつて、チヤツク44は、回転及び昇降可能な状態にあるものである点においては、本願第一発明におけるスピンドルと同様なものであると認められる。しかしながら、チヤツク組立体21が真空作動されるチヤツク44を具備しているとの前記記載及びその接合状態を示す前記記載並びに第11図からすると、チヤツク44は、チヤツク組立体26と一体となつていて、チヤツク組立体26と共に回転及び昇降動作を行うものであり、このチヤツク組立体26は支持フレーム76上に片持梁状に取り付けられており、支持フレーム76は二本のシヤフト77及び78に固定され、シヤフト77及び78はチヤツクキヤリツジ51の対応する円筒状ボア79及び81内に夫々摺動自在に嵌合されているもので、昇降動作の駆動力は、ステツパモータ37が装着されたチヤツク組立支持フレーム76に対してZ軸ステツパモータ35からシヤフト77を介して与えられるという構造となつているのであるから、引用例記載の発明においては、チヤツク44又はチヤツク組立体26のみが昇降移動するのではなく、チヤツク組立支持フレーム76、その上に装着されたステツパモータ37及びガイドとしての一対のシヤフト77及び78も一体的に昇降移動することになるのであつて、昇降動作を行うものがスピンドルのみである本願第一発明のものとはこの点において構成上の差異があるといわなければならない。

被告は、「引用例記載の発明におけるチヤツクキヤリツジ51及びチヤツク44は、本願第一発明における、スピンドルハウジング及びスピンドルにそれぞれ相当する」旨主張する。

チヤツク44も、スピンドルと同じく、回転及び昇降動作を行うという限りにおいて、両者は同様なものであることは前記認定のとおりである。しかしながら、引用例記載の発明におけるチヤツクキヤリツジ51は、前記認定のとおりチヤツク組立体26を昇降可能に取付けているものであつて、本願第一発明のスピンドルに相当するチヤツク44自体を直接昇降可能に取り付けているものではなく、スピンドルを直接組み付けたスピンドルハウジングとは異なるものである。

(三) ところで、本願第一発明が前記(一)で認定したとおりの構成を採用したことによる作用効果については、前掲甲第七号証によるも、本願明細書にこれが記載されているものとは認められない。

しかしながら、前記認定のとおり、昇降移動の対象となるものが、引用例記載の発明においては、支持フレーム76と、その上に装着されたステツパモータ37と、シヤフト77及び78がチヤツク組立体26と一体となつたものであるのに対し、本願第一発明においては、スピンドルのみであることから、その重量は本願第一発明のものの方がはるかに軽量となることは容易に考えられるところであり、このことにより昇降移動のための駆動力が少なくてすみ、慣性も小さくなるので、昇降動作の高精度化、迅速化が図られること等の効果が得られることは、明細書に直接記載されてなくとも、本願第一発明の前記構成から当業者に容易に理解し得るところであり、本願第一発明の構成から自ずと明らかな効果である。

そうすれば、本願第一発明は、引用例記載の発明に比べて、その構成を異にし、その採用に伴つて得られる効果も格別の差異を生ずるものであるから、本願第一発明が、基板を保持する入り子台が少なくとも部品装着時には不動のものであること以外の点においては引用例記載の発明との間に構成において実質的な差異は認められないとした審決の認定、判断は誤りというべきである。

3 以上のとおりであるから、審決は、本願第一発明と引用例記載の発明との相違点を看過し、本願第一発明は、引用例記載の発明に基づいて容易に発明することができたものと誤つて判断したものであるから、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

1 電子部品であるチツプを基板上に配列するハイブリツド回路盤組立装着であつて、スピンドルハウジングに、下端で前記チツプを吸着保持するスピンドルを、回転及び昇降可能に組付けたチツプ保持装置と、水平面のX及びY軸方向に沿つて配置された直線状の案内レールに、前記チツプ保持装置を取り付けたベース体を、適宜駆動源により移動可能に組付けた装置と、該移動装置による前記チツプ保持装置の水平移動範囲内に位置し、前記基板を一定姿勢で不動に保持する入れ子台と、前記多数のチツプを整列した状態で載置している複数の整列受板を、前記チツプ保持装置の水平移動範囲内の所定位置に配列保持する整列受板保持台と、前記チツプ保持装置のスピンドルを、該スピンドルの回転動作を阻げることなく昇降移動させ、かつ前記スピンドルの昇降移動限を設定するスピンドル昇降装置とを備えて成るハイブリツド回路盤組立装置。(別紙図面(一)参照)(以下省略)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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